家が吹き飛ばされても笑顔:フィリピンのメイドさんの話

エンジニアとしてフィリピンに駐在していた頃、私は途上国の貧困問題を少しでも改善できることを誇りに思っていました。数千億円規模のエネルギー関連施設を建設することで、膨大な数の人が職を得て、新しい村、新しい店ができる。

しかし、実際には、外部からもたらされた急激な経済発展は、現地生活の文化崩壊、必ずしも生活の豊かには繋がらないことを学びました。

同じ家にいたメイドさんとの1つの話を共有します。

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私が住んでいる家には、お手伝いさん(メイドさん)がいて、食事や洗濯、掃除をしてくれていました。私は、毎朝4時半に起床し、朝5時過ぎには家を出る生活を送っていました。

忙しい生活の中で、限りなく100%仕事に集中するために会社が手配してくれていました。


フィリピンでは台風が頻繁に起こります。日本に来る台風はフィリピンあたりで誕生していること、天気予報で見ると思います。

台風が近づいていたある朝の午前4時ごろ。

自分の家の扉を”バン” ”バン"と叩く音が聞こえ、飛び起きました。

(フィリピンは治安が悪い国。住んでいたホテルの目の前で、人が銃殺された事件がありました。私は不審者が来たのかと思い、本当に怯えながら、武器として掃除のモップを手に、おそるおそる玄関に近づきました。)


すると、「Sir(さあ)ー!!!!Sir(さあ)ー!!!!」という声が。

(さあーは英語のSirで、目上の人の呼び方)。


扉を開けると、 全身ずぶ濡れ(そして裸足)のメイドさんがいました。



その日は台風が接近していて、大雨と強風。


そんななか、メイドさんは歩いて1時間以上かかるうちまで、朝食を作りに来ていました。


台風の時くらい、仕事を休んだら良かったのに。と伝えると、


1日休むと、その日食っていけなくなると。


メイドさんの給料は、当時月6000円。1日あたり300円程度。


このお金がなくなると、家族が食べていけなくなるらしいのです。


ずぶ濡れになって来た理由は、バスに乗るお金もないから、歩くしかなかったと。


さらに、話を聞くと、おうちが飛ばされた!!と言うので、まさかと思い、

うそでしょう?という思いで、Really ?と聞くと、ガラケーで画像を見せてくれました。

(ASIA TYPHOON PHOTO GALLERY)


本当に家が飛ばされて、ほとんど跡形もない状態になっていました。

ただ、よくよく話を聞いてみると、年に3回ほど家が飛んでなくなるそうです。

そして、1週間から2週間で家を直すとのことで、不謹慎にも、3匹の子豚にたとえれば、最初に家を建てて、オオカミに家を吹き飛ばされる長男といったところでしょうか。


実際には、働き盛りの男たちは、サウジアラビアなど海外に出稼ぎに行っているので、家に残った高齢者と女性だけでは、まともな家が建てらないとのことでした。


当時の記憶(4年前)は薄れてきていますが、自分たちが毎日必死に頑張って仕事していることよりも、現地の人の生活をどうにか良くしたい、と思いを強くしていました。


自分たちが恵まれている、彼女たちが恵まれていないから、どうにかしなきゃというより、こういった世界で生きている人はたくさんいて、自分たちが当たり前と思っている生活は、全然当たり前じゃないんだと、価値観が壊れて行くような感じがしました。


そのメイドさんとそのご家族とお会いしたとき、みんな笑顔(作り笑いであったかもしれない)で、楽しそうに過ごしていたことが印象的でした。実際、1年ほど生活する中で、台風で家を飛ばされたくらいは気にしていない様子で、力強く、楽しくイキイキと生きている印象を受けました。

WILL-BEING:未来の学校

フィンランドのデザインスクールでの学びをベースとした新しい学校を作りたい。未来の大人達が豊かな人生を送るために。①創造性 / イノベーション ②感性 / 人間中心 ③ウェルビーイング Will-being=Will(遺書)× Well-being(より良く生きること)。

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