クリエイティブは茨の道: それでも豊かに生きるために
クリエイティブになりたい。
もっとアイデアを出せるようになりたい。
人と違う発想ができるようになりたい。
デザイン思考やイノベーションなどの言葉が浸透しているように、既存の枠に囚われない発想をする”クリエイティビティ”が注目されている。
私はクリエイティブとは無縁の世界で生きてきた。元々の専門は構造解析。この界隈において、クリエイティビティは必須ではない。むしろ、重要なのは、論理を着実に積み上げること、専門家の批判に耐えうる徹底的な仮説検証だった。新卒ではエンジニアとして働いた。
新卒で入社した会社を3年で退職し、2017年7月からの約2年間、フィンランドのアアルト大学のIDBMで、クリエイティブ教育を受けた。2019年5月に修了し、現職では、0から1で事業を創造していくビジネスデザインと言われる仕事をしている。
クリエイティブな領域に携わるようになって、感じるのは、クリエイティブという軽やかな音の響きとは裏腹に、クリエイティブになることは苦難を伴う茨の道だということだ。ここでいう、"クリエイティビティ" は、自分だけの狭い考えや世の中が当たり前としている価値観に疑問を投げかけ、「枠を外してゼロベースで発想する」ことである。
抽象的なので料理に例えると、レシピの本を見ながら作る料理を決め、必要な具材を調達し、レシピ通りに作るのが、エンジニア的、論理的な発想だ。求められるのは正確さや速さ。一方、デザイン的、クリエイティブな発想では、レシピは存在しない。外国のスーパーに行き、初めての食材を目の前にするイメージだ。日本食は作れない。何を作るのか?どうやって作るのか?自由に発想して作る。求められるのは、失敗を前提として、作りながら、試行錯誤をすること。楽しまなければ、やってやれない。
クリエイティブになることは、先例のないアイデアを発想することであり、実行することでもある。不確実性を常に含み、これまでの知識や考え方が役に立たない状況を進む。実は、非常にリスクが高い(と一見思われる)選択をすることだ。仕事だけにとどまらない。自分なりの発想ができる人は、生き方もクリエイティブになる。だから、クリエイティブは茨の道なのだ。
クリエイティブな人と聞いて、誰を思い浮かべるだろうか?
スティーブ・ジョブズ、エジソン、お笑い芸人だろうか。思い浮かべるクリエイティブな人達は、きっと、”社会の常識”と言われる生き方と異なる、その人物なりの生き方をしているのではないだろうか。過去の偉人であれば、当時、周囲から理解されず、批判され、誰もがマネしたいと思えるような、楽な人生ではなかったのではないだろうか。
デザインスクールに留学していた仲間の多くは、自分の生き方について良い意味で、見通すことができていなかった。入学してすぐ、卒業後何をしていたい?と聞くと、I don't know. Let's see. (まだ知らないよ。どうなるか楽しみだね。)という回答が多かった。MBAと違い、卒業後何をしているかの具体的なイメージがわかない。大まかな方向性はあっても、半年後ですら、自分が何をしているか分からないという状態の人がほとんどだ。例えば、プロジェクトでインスピレーションを受け、入学後半年で、住む場所も職種も変えて学校を辞める人がいたり、卒業を先延ばしにして、起業する人がいたりする。共通するのは、皆、その曖昧さを、楽しんでいるように思えることだ。
幸せについて研究するポジティブ心理学の分野で有名な、SELF-DETERMINATION THEORY (自己決定理論)では、高いモチベーションと幸せで充実した人生を送るためには、自分なりの幸せを追求すること(AUTONOMY)、それを追求する能力があると思える(COMPETENCE)が重要な要素だとされる。平たく言えば、幸せの形は人それぞれであり、その自分なりの幸せを追求していく姿勢が、幸せに繋がるということだろう。
つまり、幸せになるためには、他者や社会が当たり前とする価値観を一旦取り払って、自分なりの幸せや豊かさについて考える必要があるということでもある、と私は思う。他者や社会が当たり前とする価値観に疑問を投げかけ、ゼロベースで発想する、まさに、クリエイティビティが必要なのだ。逆に言えば、クリエイティブでなければ、自分本来の幸せを実感することはできないのではないだろうか。
でも、クリエイティブになることは怖い。リスクをとる必要がある、他の人と違うから共感されるか分からない、批判されやすい、先行きが見えない。様々な不安を乗り越えて、進む必要がある。それでも、自分本来の幸せを追求していくためには、クリエイティブになるしかない。
そのためには、何者にも惑わされない、なりたい自分やあるべき姿を追求する”強い意志”が必要なのではないだろうか。
Photo at Arktikum Science Center, Rovaniemi, Finland
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