アップトゥーユーが育む本当の生産性と幸せ:フィンランドの大学教育を経験して

2019年6月にフィンランドのアアルト大学にて、デザインマネジメントの修士課程を修了した。それまで大学院含め日本で教育を受けてきた私が最も苦労したのが、全てにおいて自由であることだった。


どの授業をとってもいい、どうやって進めてもいい、宿題はやってもやらなくてもいい、2年で卒業しても4年で卒業してもいい、なんなら卒業しなくてもいい、研究のテーマも指導教官もあなたが決めてください、と徹底的に、何から何まで “自由”なのである。


日本で修士号を取得したときは、修士1年生から研究室配属があり、指導教官からオススメの研究テーマが与えられ、博士課程の先輩や研究員からアドバイスを受け、週1のミーティングで進捗の共有とフィードバックをもらえる。そして必ず2年間で卒業する。自分の意思はない。一方、フィンランドでは、修士の研究を始める時期になってもすべてが白紙。自ら動かねばならない。研究室配属なんてものはなく、研究テーマは自分で決める、指導教官も自分で選ぶ、卒業する期間も自分次第。企業とのコラボレーションや専門家へのヒアリングなども自らが動いて進める。もちろん、みな自分の興味と合致すれば協力的です。


授業でも研究でも常に問われるのは、

「あなたはどうしたいの?」

「君だったらどう対処するの?」

「正解はないけど、あなたの理想は?」

などの正解のない自分なりの思いや考えでした。


これを名付けて、アップトゥーユー(すべてはあなた次第)教育と呼ぶことにする。


アップトゥーユー教育は、ただの放任主義のように思うかもしれない。私も初めは、先生たち、給料もらってるんだから、学生を放置するんじゃなくて、ちゃんと教えてくれよ、、、と思っていた。


たとえば、こんな具合。

ある授業で、「2040年に宇宙での資源開発が当たり前になったとき、どんな社会になっているのだろうか?」という抽象的な課題に対して、専門性の異なる学生数名でグループをつくり取り組むプロジェクトがあった。最終的な成果物は、未来の宇宙開発に関するイベントを開いて集客して、プレゼンを行うとというもの。先生からのフィードバックはこんな感じだ。


「Wow, amazing!! 素晴らしいアイデアだ!」

「どうして、そんなにスムーズにプロジェクトを進められるんだ、すごい!」

「ここから、あなた達はどんなことを学んだ?」


何も教えてくれないのだ。もちろん、考えるインスピレーションになりそうな材料は与えてくれるのだが、終始、すべてはあなた次第という態度を貫いている。


私は、このアップトゥーユー教育を2年受けたことによって、それ以前よりも、自分がやりたいと思う仕事につき、主体的に楽しんで仕事ができているように思う。人生全体でも、流されるのではなく、主体的に取り組むことができているように感じる。総じて、以前より生産的で幸せな気がしている。


フィンランドはわずか500万人の小国で、自然環境が厳しく、資源もとれない小国ながら、世界トップレベルの学力、スタートアップへの投資割合(対GDP)は世界トップクラス、ノキアやマリメッコなど世界的に有名な企業もあり、世界一幸福な国にも選ばれている。これを支えているのが世界一と言われる教育システムだろう。


その世界一の教育システムの裏にある、最もシンプルで、最も大切な思想がこのアップトゥーユー精神だと私は感じる。


アップトゥーユー精神を基にすると、先生は指導者ではなくファシリテーター、正解のない課題を与える、知識ではなく体験を教育の主眼に置くなど、フィンランド式教育ができてくるのではないだろうか。


アップトゥーユー教育がもたらすメリットはなんだろうか。それは圧倒的な内発的動機と行動力の育成だと感じる。自分の内から湧き出るモチベーションの源泉は何だろうか?なにをやってもいいとしたら、果たして私は何をしたいのだろうか?私は何に対して熱を持って取り組むことができるのだろうか?といった、誰からも与えられるわけではない、自分なりのモチベーションと行動。いうまでもなく、起業家精神にもつながる。スタートアップが多い理由もここにあるのだろう。


この内発的動機は、ポジティブ心理学では「幸せの源泉」とも言われている。このポジティブ心理学と言われる分野の中で、幸福について多くの研究がなされている。なかでも有名な理論の1つに、Self-Determination Theory (自己決定理論)というものがあり、これは、内側から湧き出るモチベーションを追求し、そのモチベーションを達成することができる能力があると、幸福度が高いといわれる。


つまり、フィンランドが世界一幸福な国に選ばれている理由も、このアップトゥーユー教育にあるのではないだろうか。


「あなたが今していることは、心からやりたいと思っていることですか?」

たまには、こんな問いに素直に答えてみるのもいいかもしれない。


Photo at Harald Herlin Learning Centre, Aalto University, Helsinki, Finland

WILL-BEING:未来の学校

フィンランドのデザインスクールでの学びをベースとした新しい学校を作りたい。未来の大人達が豊かな人生を送るために。①創造性 / イノベーション ②感性 / 人間中心 ③ウェルビーイング Will-being=Will(遺書)× Well-being(より良く生きること)。

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